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最高裁判所第三小法廷 昭和45年(あ)450号 決定 1972年1月18日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人佐藤義行の上告趣意のうち、憲法三二条、七六条三項違反をいう点は、実質は、いずれも事実誤認、単なる法令違反の主張に帰し、その余も、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、所論は、すべて適法な上告理由にあたらない。

弁護人尾崎正吾の上告趣意のうち、憲法三一条、三八条違反をいう点は、実質は、単なる法令違反(記録に照らし、所論調書の任意性を疑うべき事跡はないとした原審の判断は相当である。)の主張にほかならず、その余は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であつて、所論は、すべて適法な上告理由にあたらない。

被告人本人の「上告理由書」と題する書面(昭和四五年一〇月二一日受付)は、期限後提出にかかるものであるから判断を加えない。

(なお、原判決の是認する第一審判決は、罪となるべき事実第一の(二)として、「被告人は、税理士会に入会している税理士でなく、法定の除外事由がないのに、別紙一覧表記載のとおり、昭和四一年三月中旬頃から同四二年七月下旬頃までの間、一五回にわたり、千葉市都町一、二七八番地の一五八の自宅において、遠藤信ほか九名の依頼を受けて、千葉税務署または成田税務署に提出する昭和四〇年分、同四一年分の所得税確定申告書を作成し、もつて税務書類を作成して、税理士業務を行」なつた旨の判示をし、この事実は包括して税理士法五九条、五二条に該当するとしたうえ、その余の各認定事実と併合罪をなすものとして処断しているのであるが、その判決書には右の「別紙一覧表」なるものが添付されていない。すなわち、第一審判決は、その認定した犯罪事実について、これが内容をなすべき個々の具体的行為の判示を別紙に譲りながら、当該別紙を判決書に付さなかつたもので、かかる判示は、判決書における事実摘示として完全性を欠くというほかなく、同判決には理由を付さなかつた違法がある。

そして、右のごとき第一審判決の瑕疵は、なんら特段の調査をするまでもなく、同判決を一読すればただちに発見しうるところであるから、原審は、当然職権をもつて刑訴法三九七条一項、三七八条四号により同判決を破棄しなければならなかつたのであるが、原判決はこの点につきなんら触れるところがないのであつて、原審のこの措置には、第一審判決の右瑕疵を看過した違法があり、かつ、その違法が判決に影響を及ぼすこと多言を要しない。

ところで、第一審判決が右第一の(二)として認定した税理士法違反の所為〔非税理士による税理士業務〕は、いわゆる営業犯に属し、個々の具体的行為が独立して犯罪を構成するのでなく、これらが包括的に一個の構成要件を充足するものであるところ、前示のとおり、第一審判決は、その本文において、犯行の始期および終期、犯行場所、行為の回数、依頼者一名の氏名およびその他の依頼者の数、ならびに被告人の行なつた「税理士業務」の態様〔他人の求めに応じた税の申告書の作成〕を概括的に説示しており、ただその具体的内容のみが別紙一覧表に譲られているにとどまり、併合罪を構成すべき独立の諸事実の摘示が別表に譲られ、その別表が脱落しているような場合とは趣を異にしている。さらに、記録によれば、第一審判決に添付されるべきであつた「別紙一覧表」の内容は、別掲のごとき被告人に対する昭和四三年二月六日付起訴状添付の別紙一覧表の内容と一致するものであることを看取するに難くないのみならず、本件第一審および原審の審理を通じて、右起訴状別紙一覧表の記載事項自体の真実性については当事者間にまつたく争いがなく、かつ、原審も、事実上、右起訴状別紙一覧表の内容と同一の事項を念頭において審理判断していることが、その判文によつて明白である。

このような点を考えあわせると、第一審判決および原判決の前記違法は、いまだこれによつて該判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。)

また、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。(田中二郎 下村三郎 関根小郷 天野武一)

別紙一覧表<省略>

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